男性の美容を真面目に考える③ 〜皮脂の働きと男女差〜

(2)皮脂に関する男女の違いと皮脂の影響

■皮脂とは

肌の表皮にある脂質は、皮膚の脂腺から分泌される皮脂と、表皮細胞由来の角質細胞間脂質からできています。そのうち、肌の表面を覆っているのは、皮脂と汗が混ざり合った皮脂膜です。さて、角質バリア機能の主体である細胞間脂質(男性の美容を真面目に考える②を参照)が、セラミド、コレステロール、遊離脂肪酸などによって構成されているのに対して、皮脂の主成分はトリグリセリド、ワックスエステル、スクアレン、遊離脂肪酸であり、その組成は異なっています。

■皮脂の働きと影響

皮脂は、皮膚表面からの水分蒸発抑制因子の一つであり、皮膚に滑らかさを与える重要な成分として知られています。しかし一方で、近年では、紫外線による脂質過酸化の問題により、皮膚に様々な障害をもたらすことが報告されてきました。

■皮脂はどんな化粧品も真似できない最高の皮膜原料である

皮脂は、毛穴の内面に開く皮脂腺開口部から皮膚表面に分泌され、汗腺から分泌される汗と混ざりあい、皮脂膜となって皮膚や体毛の表面に常に薄い膜状に広がります。そして、皮膚や毛髪を外界の影響から、物理的・化学的に保護すると同時に、角質からの水分の蒸散を抑制しています。上述した通り、皮脂は多くの成分が複合的に含有されており、決して化粧品で再現することはできません。また、自身の天然の細胞から製造されているものなので、人工クリームに含まれる界面活性剤による角質バリアの破壊やアレルギー反応は認めません。そのため、皮脂は我々皮膚の守り神であり、洗顔や化粧による過剰な除去は、ナンセンスと言えます。

■過剰な皮脂が角質のバリアに与える影響

一方で、過剰な皮脂が角質のバリア機能に悪影響を及ぼす可能性を報告した研究を認めます。丸山らは、ヘアレスマウスを用いたin vivo、セラミドリポソームを用いたin vitroの研究を通して、皮脂に含まれる脂肪酸が表皮の角質層のバリア機能を担っている細胞間脂質に対して物理的障害を及ぼしていることを強く示唆しています。

皮膚からの蒸散量を表す経表皮水分蒸散量(TEWL)を主要評価項目としたin vivoの彼らの研究では、皮脂に含まれる脂肪酸は、同じく皮脂に含まれるスクアレン、トリオレイン、コレステロールと比較し、2〜3倍もT E W Lを上昇させる結果となりました。さらに、脂肪酸を分析したところ、飽和脂肪酸はT E W Lに影響しなかったのに対し、不飽和脂肪酸は二重結合のタイプによらず、全てT E W Lを上昇させました。そして、この実験では塗布直後からT E W Lが上昇している為、その作用は表皮の角化過程を介さない、直接的かつ物理的な作用であると言えます。さらに、角質細胞間脂質をイメージしたセラミドリポソームを用いたin vitroの実験でも、不飽和脂肪酸により、セラミドの膜構造の破壊が促進されました。

一方で、それら不飽和脂肪酸による角質バリア機能の破壊は、主に細胞間脂質に含まれるコレステロールおよびその誘導体である長鎖α-ヒドロキシコレステリルエステルにより、有意に抑制されることも示されました。その為、男性の肌にとって、これらの成分は重要な役割を担うことになります。

■皮脂分泌量の男女差に関する臨床研究

Jacobiら(2005)およびWilhelmら(1991)は、皮脂の分泌量は男女間に有意差は認めないと報告しています。一方で、Baileyら(2012)は、額は女性、それ以外の顔面の部位は男性の皮脂の分泌量が高いと報告しました。Luebberdingら(2013)は、男性の皮脂の分泌量の加齢性変化に関して、頬部では変化せず、額で徐々に増加するとしています。また、同じ研究において、逆に女性では徐々に減少したと報告しています。Manら(2009)による研究では、13〜70歳の場合、額の皮脂分泌量は女性よりも男性の方が有意に多かったとしています。Pochiら(1974)も、男性は皮脂の産生量が多く、毛穴サイズが大きいと報告しています。さらに、30名の男性と30名の女性の被験者を対象とした韓国の研究では、男性と、毛穴のサイズおよび皮脂の分泌量に関して正の相関が見られました(Roh、2006)。2014年のLiらの研究では、女性の方が、顔とネックラインの肌の皮脂分泌量が少なかったと報告しています。

日本人を対象とした臨床研究ではどうでしょうか。水越らにより、20~50 代の男性45名を対象とした臨床研究によれば、皮脂量の計測値は、額, 鼻,頬,顎及び上腕内側いずれの部位でも,年齢との関連性は示されませんでした。一方で、女性と比較した場合、TEWL値と皮脂量に関して男性の方が高い傾向が示されました。さらに、皮脂の量とT E W Lに正の相関関係を認めており、この研究ではヒトを対象とした場合でも、皮脂はバリア機能の悪化の一助となる可能性を示唆しています。

■男性の肌にとって皮脂は善か悪か

皮脂はとても大切な成分です。その為、過剰に意識して除去する必要は全くありません。むしろ、大切にするべきです。これまで、間違った知識のせいで皮脂を過剰に除去し、角質のバリアを破壊し、皮膚の保湿機能を劣化させた多くの女性患者を診てきました。皆さんも、感覚的に、“あぶらとり紙を頻用すると、逆に毛穴が開大する”など、日常生活で実感していることもあると思います。

過剰な皮脂に対する対処法の一つは、水あるいはぬるま湯で洗顔することです。また、上記に示したように、もともと生体内に存在するコレステロールなどを用いて、不飽和脂肪酸によるバリア機能の破壊を抑制する方法もあります。このような成分は化粧品の中にすでに含有されていることもあるので、男性は、“メンズコスメ”を購入するとしても、しっかり裏面をみて含有成分をチェックすることをお勧めします。

■まとめ

  • 皮脂は角質バリア機能の立役者である。
  • 皮脂に含まれる過剰な不飽和脂肪酸は、角質間脂質を構成するセラミドを破壊し、角質のバリアと保湿機能に悪影響を与える可能性がある。
  • 様々な臨床研究はあるが、多くの臨床研究では男性の方が皮脂量が多く、毛穴が開大しているとされている。
  • メンズコスメは成分で選びましょう。

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