新型コロナのウソとホントシリーズ⑥
〜コロナウイルスが臓器を攻撃して重症化する?!〜

「コロナウイルスが臓器を攻撃して重症化する」

これはウソです。意外かも分かりませんが、コロナウイルス自体が肺や心臓や血管といった各臓器や各組織を直接攻撃することが、COVID-19の重症化や重篤化をもたらしているのではありません。実際に攻撃しているのはSARS2に罹った人の免疫系です。つまり、SARS2に感染した約5%程度の人が集中治療室での治療が必要になるほど重篤化しますが、それは突然侵入してきたSARS2に対して過剰に反応してしまったウイルスと戦う免疫系のシステムが暴走して自己免疫疾患のように自分自身を攻撃した結果が致死的な状況を生み出します。更に、体の様々なシステム、例えば血を固める凝固系などの機能が亢進して致死的な血栓を引き起こすこともあります。次の図を見て下さい。COVID-19の臨床経過は二つの段階に分かれます。

Siddiqi HK, Mehra MR. COVID-19 illness in native and immunosuppressed states: A clinical-therapeutic staging proposal. J Heart Lung Transplant 2020;39:405-407. のFigure 1を改変

SARS2に感染すると最初は無症状です。しかし、ウイルスは感染した人の喉や鼻の細胞に入り込み、密かに増殖してゆきます。COVID-19の特徴の一つは、この無症状の時期に周囲の人に感染を広めてゆことです。感染した本人も無自覚ですから、移された人も最初は分かりません。人から人にSARS2が感染する4割から5割程度は、この時期に起こっていると言われています。

しばらくすると感染した人に咳、発熱、倦怠感など、カゼのような症状が現れます。これが1〜2週間続きます。この時期は感冒や呼吸器の他の感染症と同じような経過を辿ります。これが第一段階の「ウイルス増殖期」です。この時期の治療は抗ウイルス薬で治療します。

例えば日本で開発された「アビガン」という抗ウイルス薬があります。また、それに類した薬でアメリカで開発された「レムデシビル」は一般的には重症化した患者に投与することになっていますが、理論的にはこの時期に投与することが有効と考えられます。アメリカのトランプ大統領がSARS2に感染して入院したとき、直ぐにこのレムデシビルの投与が開始されました。合理的な治療だったと思います。ウイルス増殖期は、ウイルス自体が人体を攻撃している時期ですから、ウイルスそのものの増殖を阻止することが重要です。

このウイルス増殖期に免疫系が普通のウイルスに対するように適度に対処し、過剰反応することなく感染が終息すれば、その人は問題なく社会復帰できます。一般的には8割程度の人はそのような経過を辿ると言われます。ただし、仮に無症状であったとしても、その約半数に何らかの後遺症が残る、例えば肺に影が残ったり様々な体の不調が続くとも言われています。

しかし、約2割程度の人はウイルス増殖期の後に、炎症反応拡大期が生じます。サイトカインストームという言葉がありますが、未知のウイルスに対抗すべく様々な免疫系が過剰に反応し出します。そして、ウイルスを攻撃する抗体と呼ばれる分子を産生します。そのため、COVID-19が軽症で済んだ人にはあまり抗体が検出されませんが、重症化した人では抗体が検出されます。そして、これも意外かも分かりませんが、炎症反応拡大期になるとウイルス量自体は減少してゆきます。もはや病気の主役はSARS2から、自分自身の暴走してしまった免疫系に変わったのです。そして呼吸不全を引き起こす間質性肺炎を生じたり、心臓、腎臓、血管、神経系などの各種の臓器や組織に炎症を起こしてゆきます。また凝固系が異常を起こし、血栓が体中のあちこちで生じることもあります。この時期では免疫系の暴走を抑えることが治療になりますから、かなり強いステロイドである「デキサメタゾン」が治療薬として認められています。また、血栓形成を防止する「フサン」も有効と言われています。最近ではCOVID-19から回復した人の血清を利用することも始められています。そうした人の血清の中にはSARS2に対処できる中和抗体があると考えられるからです。また、人為的にSARS2に対す中和抗体を作成して投与する治療法も開発中です。しかし、理論的にはこうした抗体製剤は第一段階で利用した方がより効果的とも考えられます。トランプ大統領の場合は、やはり入院して直ぐにこの治療が行われたようです。

そして、SARS2に罹患した約5%程度の人は、人工呼吸器が必要になるほどの重い肺炎(SARS:サーズ)になり、集中治療室での治療が必要になります。重症化しやすい人は、高血圧、糖尿病、腎臓病、肥満など、血管にリスクのある人が多いと言われます。また、疫学的には高齢と男性であることがリスクになると言われます。人工呼吸器が必要になった場合、生還できるかどうかは五分五分のようです。そのため、SARS2に100人が感染すると、80人程度は軽症または無症状で済みますが、15人ほどは肺炎などの臓器障害が生じ、5人ほどは集中治療室で人工呼吸器やECMO(人工肺)などで治療を受けるほど重症化すると言われています。集中治療室に入った5人のうち、2.5人ほどは生還し、2.5人ほどは死亡する、よく若い人は軽症で済むと言われてきましたが、若い人でも中には重症化する人がいます。

よくCOVID-19に対して”軽症”とか”重症”という言葉が使われますが、臨床経過における第1段階の「ウイルス増殖期」のみで軽快してゆく人を「軽症」、第2段階の「炎症反応拡大期」まで進行する人を「重症」と考えれば分かりやすいと思います。SARS2に感染しても最初は誰でもカゼのような軽い症状ですが、一部の人において、ある日突然容体が悪化して専門的な治療が必要な状態になります。臨床経過が第2段階に入ってしまい、重症化したと言えます。

また、人工呼吸器やECMOまで必要になる人を「重篤」として分けて表現した方がよいと思います。今日は何人感染したということがよく報道されますが、本当に問題になるのは生命にまで影響が及び得る重篤化した患者数だからです。

COVID-19の入院患者11,266人を対象にした最近のWHOの臨床試験で、抗ウイルス薬のレムデシビルはCOVID-19の死亡率の改善にはほとんど効果はなかったとの報道がありました。第1段階のウイスル増殖をいくら抑えても、第2段階の炎症反応を抑えない限り生存率改善にはつながらないと言えます。生存率改善に効果が確かめられているのは抗炎症作用のあるデキサメタゾンだけです。レムデシビルを5日間投与すると約25万円弱かかりますが、デキサメタゾンは1本数千円程度の安価な薬剤で花粉症や痒み止めの薬にも配合されています。やはり、COVID-19は2段階からなる病気で、生死を分けるのは第2段階であるという理解が重要と言えます。

SARS2に対する対抗策は三段階に分けられます。第1段階はマスクをしたり換気を行ったりして、そもそも感染しないための防御を行うことです。第2段階はワクチンを打つことで、人為的にウイルスに対する抵抗力を付けることです。第3段階は感染した後、早期発見して早期治療を行ってゆくことです。現状では治療に対する決め手はなく、ワクチンも開発途上のため、日頃から第1段階の感染防御を心がけることが一番と言えます。

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